Right to Light

陽ととなり

4年前に閉店したバイト先のことをまだ寂しく思っている

今ではすっかりドラッグストアになってしまった。

 

高校の卒業式が終わった夕方すぐに面接に行った記憶がある。私にとって初めてのアルバイトであり初めての面接であり初めての給料であり初めての社会との関わりであった。高い天井に吊られたシャンデリア、カーペット貼りの床、テーブルクロスが敷かれた机に木編みの椅子…いかにもな平成初期に建てられた雰囲気で満ちていた。はじめこそ緊張して仕事をしていたがそれもしばらくすると解れてきて、気付けばその空間を楽しむようになっていた。有線から流れる音楽が好きだった。手書きの出勤簿が好きだった。決まった曜日に繰り返し訪れる夜が好きだった。大学を卒業してからもそこは変わらずにあった。散歩する時は周りの道を必ず通ったし、眩し過ぎる程のライトで照らされた明かりが変わらずにあったから私はいつまでもかつて過ごしたその時間を反芻して想いに浸った。歳を取るに連れて広がっていく行動範囲と行き来する世界の中で、場所を好きになるという経験を実感したのはそれが初めてだったかもしれない。私にとってそこは紛れもなく、代えようのないただひとつの世界だったのだ。

 

それが今では跡形も無く失くなってしまった。木組みの看板も道を照らすライトも、花火や駐車の練習をした広い駐車場も失くなってしまった。4年経った今でも思い出すと世界が閉じた気分になる。時が流れ人も移ろう、決して止められないその潮流をひしひしと感じる。私が過ごした時間は本当に現実だったのかと思ってしまうような、薄れていく記憶の中にしか存在しない世界。そこで流れていた時間が恋しい。穏やかに夜が流れていく感覚が恋しい。在りし日の働く時間であり自分を見つめ直す時間でもあったその過去にはもうどうやっても手が届かない。思い返そうとするといつも、連絡先も知らないで離れてしまった旧友を想うような感覚になる。あなたは今どこで何をしているのかって、もし叶うなら、これから先の人生またどこかで路が交わると良いのにって、勝手にそう想ってしまう私はやっぱり未練がましい。だとしても、時間を好きなれる自分や場所に想いを持てる自分を育んでくれたその過去はずっと大切にしていきたい。

 

10年前の日付が入った写真と蛍の光に想いを寄せて、出会えて良かった。私は今もここにいる。