Right to Light

陽ととなり

さざめき、バーチカル

昔母親が教えてくれた。日本が生まれるずっと前、イザナギイザナミが黄泉の世界で永遠の別れとなった時、原因はイザナギイザナミとの約束を破ったからなんだって。約束を破った罪、それを許さなかった驕り、どちらも呪いとなって今に続く。だから男と女はいつまでもすれ違い続けるんだって。どうしてそんな話をしたのかまでは覚えていないけれどなぜか頭に残っている昔の記憶。この歳になってかなり合点がいくような昔の話。

 

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高速を飛ばしてひとり、時間を気にせず人に気を遣わず運転と振動、音楽と景色を楽しむ時間は思いの外充実していた。天気が曇りというのもまた良かった。山間の空模様は巡るように変わった。打ち付ける雨、雲間から差す光、巻き上げる水しぶき、回るエンジン。私は確かにひとりだったけど、それで十分だと思える時間。その時間の中にある時だけは私は私に優しかった。怒りも楽しみも慰めも全部あった。肩の荷が降りて憎しみを忘れた。既に日が何度か変わった今となっては昔の話。

 

記憶も気持ちも楽しかったものはすぐ薄れていってしまう。幸せも愛も全部幻だったんじゃないかって思う。今の私にはその影すら見えなくて、自分が靄に覆われて実態が無いように思えて仕方がない。一時的な幸福と腹の底に溜まる憎しみはどうあっても後者の方に秤が傾いて、それだけが自分を作る全てだと愚かにも思ってしまって仕方がない。

 

何度も何度も同じことを繰り返し思うのは自分を変えられていない証拠だと思う。何度も何度も同じ過去に縋っているのは今を愛せていない証拠だと思う。悲しみと憎しみと上書きするだけの気持ちが無い。憎しみを抱えたまま付き合ってくれるのはもう夜しかいないみたい。私を慰めてくれるのは私だけで話が出来る場はここだけなのだ。私はもうきっとどこにも行けないのだから。

 

雨は降り続ける。私は歩いている。今年の夏もなるべくしてなっている。フィクションの大人になっていたい。孤独は質が悪い。

酷く疲れた。