Right to Light

陽ととなり

あなたのいないこの街にも

最後に交わした言葉も薄れていく。

 

プールサイドにソファは似つかわしくないんじゃないかと言ったら彼女は本番ではこうなのと軽く返した。後片付けが大変そうだと私が言うとそれは私達の考えることじゃないとまた返した。饗宴と酔いの中に幼気な少年の声が混ざる。彼女の顔は疲れているように見えた。ネオンライトで彩られる水面は乱反射して現実味が無かった。対照的に私たちの座るソファは天蓋故に薄暗い。『切り離し』、自分だけが周りとは違う領域に居ることが私は好きだった。だからみんなみたいに大声を上げながら水に飛び込むなんてことはしなかったし、そも性格から出来なかった。『切り離し』は私が自分の性格を盾に不都合や好ましくない空気から遠ざかることに便利な名分でしかなかった。

「似てるな」

「目元でしょ。肩が良いんだって、野球やらせるって今から言ってるよ」

「じゃあ君には似ないな」

「あはは、なにそれ」

それからは何を話したのか覚えていない。仔細が大事な時間だと今になって思う。

「■■くんはこれからどうするの?」

「……俺は、何も無いよ」

「そう」

「ずっと■■ちゃんみたいになりたかったけど、俺には無理っぽい」

「あはは」

「これから■■ちゃんのいない世界で俺はどうしていったらいい」

「それはわたしが教えることじゃないなぁ」

本当は全部どうでもいいんだと言いたかった。疲れたからしばらくはまたひとりになると言いたかった。でもそれを言うと彼女ががっかりする気がして、私の肩に首を預ける彼女にそのこと以上の意味を見出すのはなんだかとても怖かった。

 

また春が終わってしばらくの夏が来る。人との出会いに意味があるとしたら私が今あるのはなんのためなのだろう。なんのためだったのだろう。眠る気も無い。寝た気もしない。忘れていくことばかり増えて永遠に残るものなんて持ち得ないかもしれない。そんな中でも自信は必要で、自信を持つには勝つしかない。熱いものはあるし確かな愛もある。それだけじゃダメだし悪い自覚もある。生きれば生きるだけ、思い出は戒めに、場所は感傷に変わる。失くしたくないものもそのうちに存在すら忘れて大切にしていたものは身勝手に壊れていく。目を閉じて顔を逸らしても自分からは逃げられない。薄れていくものも、自覚があるからこそ重く苦しい。もしどこかの街で同じ気持ちでいるのだとしたら、自分が解らなくて苦しんでいるのだとしたら?杞憂だな、そんなことはきっと吹いて飛ばすだろう。