Right to Light

陽ととなり

皐の香りと時計の針と

予定調和のセンチメンタルになってしまって、今日が終わってほしくない。春の日暮れの香りに誘われて浮き足立った気持ちで夜を駆ける。興奮して眠れない。寂しくて眠れない。やり残したことがまだあるからだ。どうしても今日を終わらせる訳にはいかないのだ。そのやり残したこととは何なのか。頭ではきっちり理解しているはずなのに、理性と気恥ずかしさが邪魔をして体から行動を奪っていく。気候が丁度いい。池の周りをぐるりと歩くのだけどそれだけだ。辺りからは皐の香りがする。どの季節でも日が暮れる時間が一番好きだ。空に融け込むような空気を纏うと、それだけで自分が特別な何かでいられるような気がする。少しでも油断するとすぐ自分が正しいと思い込んでしまう社会の渦の中で、この時間だけは、世界中の誰よりも僕は正しく特別になれる。だからこそいろいろ考えてしまうのだ。自分に正直になれる時間だからこそ、自分の情け無さや失望させてしまったこと、それからの接し方が正しかっただろうかとか実は僕は無神経に愚かで無自覚に傷付けてしまっているのではないだろうかとか、もっと励ましてあげるべきではなかったのか、それはエゴで本当はそんなこと望んでいないのでは?私に愛はあるけどあなたはどうだ?私にとってあなたは特別だけどあなたにとっての私はどうだ?一歩進むごとに話したいことが積もっていく。自分を何かの型にはめないと恥ずかしくて、顔を合わせれば言葉を忘れてしまう。性に合わず真面目に考える僕を笑い飛ばしてくれるならそれでいい。それでいいから、笑いながら楽しく話がしたい。それでもペシミズムが抜けきらなくて困る。だってどれだけ思い詰めて考えても僕にハッピーエンドが待っているとは思えない。せめてやさしくころして、エゴの塊と化した僕はこう呟くしかない。

 

個人に宛てた言葉をここに載せることはないはずなのに、宛先不明の自己満足ポエムを載せる気持ち悪さと直接伝える勇気を秤にかけるとちょうど釣り合うことを知っているくせにまたやってしまった。ならこれは顕れなのか。僕にはその勇気があるという顕れであってほしい。皐のように季節が来れば自ずと咲ける、そんな人間でいたかった。そう思う夜だった。今日は終わっていく。