Right to Light

陽ととなり

4月の残照

まだ少し先の話になりますが、来月から再び働くこととなりました。転職活動(っぽいもの)を始めてから年を跨いで4ヶ月、夏に退職してからの沈黙期を合わせれば8ヶ月の時間が経ちました。両親をはじめとする家族、僕を腐らせず手本になってくれた友人、出戻りを快く受け入れてくれたバイト先、もちろん彼等以外にも、特別な言葉はなくともその大海のように広い心の片隅で、美しい離れ小島の椰子の実程に僕を気にかけてくださった皆様、恩義を挙げればキリがなく言葉にできない想いでいっぱいです。お礼に初任給でココナッツジュースを奢ります。周囲への感謝の気持ちはいっぱいだけど、僕自身で言えばそれほどでもないのが正直な感想です。昨今珍しくないと言われているとはいえ、転職なんて誰もがみんなする訳ではないし、そういう意味では若い内の良い経験になったのかなぁとぼんやり思う程度の感慨。夏からで恐らく3年分は流しストックが尽きたのか、連絡の電話を頂いた時も涙は出なかった。収入の目処が立って良かったとホッとしている。そんな感慨。

 

とにかくこれまでは光陰矢の如しとはこのことかと思える短さだった。そして実に明るくそれでいて虚しく、身の振り方を考えさせられる時間だった。"貧すれば鈍する"のとおり、月々に減っていく通帳の数字を見る度に気が滅入り心は磨り減り満たされる欲も持てないまま春を迎えるのかと絶望に片足を突っ込んでいた一方で、あぁこのままでもなんとかやっていけるじゃないかというある意味で甘い考えが無かった訳ではない。フリーターだから出来る事許される事、フリーターだから出来ない事自分で許せない事、本当に沢山あった。ただ何度も言っていたようにお金もいずれは無くなるし僕の幸せはこの先にあると信じているので萎える気力を無理矢理叩き上げていたような日々だった。本当に、腐らずよくやったと思う。しかしその一方で、僕は努力をしたとは思わない。別に今回に限らず、今までの義務教育高等教育部活大学生活就活どの場に於いても、自分で「努力したなぁ」と感じたことはない。テストに試合、発表会と実力を試される機会でも、手を抜いたって(客観的に)優秀な成績になることは多々あったし、逆に力を入れても望む結果が出なかったことももちろんある。自分で納得いくだけの努力をしその努力に見合う納得した結果を得たことがない。「まだ本気を出してないだけ」なんて言えば体裁は多少見繕えるが、複雑さは心に靄をかける。スッキリしない。何をしたって自分が本気を出しているかわからないからだ。今回だって、それに見合う努力をしたかと聞かれて首を縦に振る気は無い。涙が出ない理由はそこにあるのかもしれない。みんなそんなものなのだろうか。僕が知らないだけで、そういう風に世界は回っているのだろうか。今までひっかかっていた考えが今回の転職をきっかけに何か動くかと思っていたけれど特にそんなことはなかった。

 

"しかし"なのか"だから"なのかは不明だが、とにかくこれからだと思うのだ。難儀なことに、いくら事前に手を尽くそうと、選ぶ道が最良で最善なものかは神様にしかわからない。なら人が出来ることは、稚拙浅学な僕が出来ることはきっと、選んだ道が最良で最善になるように振舞っていくことだけ、それだけだ。月並みな言葉ではあるがひとつの真理だと僕は思う。(前職は最良を尽くそうとして潰れたがそれでも真理だ。やり方が間違っていただけで、考えは間違っていない。)とりあえずまずは誰の為と気負わずに、自分とお金の為と働いてみる、人を気にかける余裕はその後だ。苦しいこともあるが安心だけは忘れないで欲しい。僕は、栄光は俺にあると信じて疑わない。その自信からくる安心を、どうか心に置いておいて。どうしても苦しい時はまたここでネタにすれば良い。皮肉なことに、経験的にその方が好きな文章が書けると思うしよく眠れる。それで昇華してくれ。思うに、一度の挫折から立ち直れることなんてそうそうになくて、折れた心は簡単には戻らない。次だって何があるかわかったものではないのだ。だから祈っていて欲しい。期待などせずに、ただ立ち直れることを。一度折れた人間がどこまで出来るのか、僕に暇な時間をくれるなら、その時間潰し程度に祈っていて欲しい。

 

後1ヶ月、なんとかフリーター生活を楽しむとする。退職は逃げと言われるかもしれないが、逃げた先は喜怒哀楽溢れる素晴らしい人間味の世界だった。月一で遊べたし愚痴を零してお酒も飲めた。素敵な後輩達とご飯も行けた。そんな後輩達の成人も卒業も内定もお祝い出来た。趣味にだって打ち込めたし家族と旅行も行けた。それだけで、何かと心を擦り減らされた転職活動をチャラにしてお釣りがくる程のしあわせだったと自信を持って言える。逃げるのだって悪くない。逃げた先が楽しければそれで勝ちだ。逆に楽しい先に逃げて逃げて逃げ続けて、楽しいまま死ねればそれで勝ちだ。

 

改めてありがたさでいっぱいだ。沈み切って暗く沈黙していた僕にもう一度舞台を用意してくれた。光を失っていた僕に輝くチャンスをくれた。だから今度は僕が照らす存在になりたい。恩義はこうして廻っていくと思うから。

 

まずはあと1ヶ月、恐れ多くもこの残照を。