Right to Light

陽ととなり

恋をするなら金曜日

金曜日は良い。それが夜なら特に良い。さらに夏だと特に良い。週末という開放感に夜という高揚、夏というシチュエーション、そこに素敵な相手を加えれば、それだけで大切な思い出ができる。トマトスライスとモッツァレラにオリーブオイルをかけた様に完璧だ。恋をするなら金曜日。それは恋のはじまりの前提としてあるべきだ。高らかに提唱したい。この世の全ての一歩を踏み出す勇気を持て余している皆さん!恋をするなら金曜日!

 

はじまりには何か特別なものを持たせたい。後に今を振り返った時に、スペシャルな気分になる様に。2人の馴れ初めを話す時に、「あそこからはじまったんだよね」と言える様に。金曜日が一番だがそれが難しいなら、例えば休みが月火の人とか度重なる労働で曜日の概念が消失している人とか、そういう人達はまた何か別のはじまりを持って欲しい。「はじまりは夕方のコメディを観ている時にかかってきた電話だったよね。」「はじまりは波の音を聴いている時だったよね。あの時魚が跳ねたんだよね。」2人だけの特別なはじまりを。恋だけに言ったことじゃない。はじまりの特別さが人を次の高みへ連れて行ってくれる。何気ない優しさに気付かせてくれる。認め許す尊さをいつまでも心の中心に置いてくれる。生きるのに必要なのは、いつだってそういう特別さだった。

 

はじまりに特別なものを持たせたい。だからまだはじまっていない人は、生活の全てがその特別になり得るのだ。なんとワクワクに溢れた毎日だろう!注意深くならなければいけない。はじまりを掴んだ時に特別さを見逃さないように。「晴れなのに雷が鳴っていた日」かもしれない。「衣替えしてお気に入りの赤いシャツを着た日」かもしれない。「普段は食べないコーヒーゼリーを買った時」かもしれない。見方を変えれば、生活ははじまりに溢れている。

 

だから恋をするなら金曜日なのだ。

 

そうこうしている内に夜は更け土曜になってしまう。夏も終わりだ。涼しい風が吹いている。寝苦しさは暑さのせいだけじゃなかった。また金曜日が終わる。橋を渡り池を歩いても駄目だった。海を見れば魚が跳ねる。次はいつ予感を見るのだろう。僕は言葉を失くしてしまったらしいから、言葉に意味を持たせる資格がないと思うから、はじまりを探すに甘んじてその先を見ることができない。でもこうして意味など無くても何かを残すことが出来た日だけ、なぜかよく眠れるのだ。

 

一番最初は「お別れ」だった。