Right to Light

陽に当たっていたい22歳

突発ショートショート「就活」

「就活」とは「就職活動」、文字どおり職に就く為に多くの学生が無理矢理参加させられる日本の恒例行事。3回生の後期が修了し、世間が「就活」ムードになってから1ヶ月が経った。俺も例に漏れず今日も黒のスーツに黒の革靴、使い難い鞄を持ちネクタイで首を絞める。はじめて合説に行った時は驚いたものだ。見渡す限り黒づくめの人間達。一様に同じ格好で同じタイミングでペンを動かす。女なんてほとんど見分けがつかない。端から見れば俺もその一員なのだろうが、俺は奴らとは違う。なぜなら、俺の大学生活は、「就活の為の時間」だったから。

入学してすぐにボランティアサークルに入った。「中学高校と陸上部だったので体力だけは自信がある。その体力を活かして社会に貢献していきたい」、建前の入部理由はこんな感じだったがその実、「履歴書に書く部活動経験は中高で済ませた。後は響きのいい社会活動をするだけだ」である。動機は不純だと我ながら思うが、活動には真面目に取り組んだ。3回生になってからはサークルの会計も務めた。これも「ミスをしない仕事アピール」のためだったのだが。
サークルだけではない。簿記と宅建の資格をとり、TOEICも800までスコアを上げた。もちろん学業にも邁進した。経営戦略を専攻し担当教授からも一目置かれるほどだ。卒業単位は既に取得済み。成績も上々。だから俺は就活に対して何の不安も無い。実際エントリーシートや履歴書は書くことに困らなかったし、面接をし終えた企業の反応も良かった。俺は他の奴等とは準備してきた時間が違う、電車でスーツを着た若い顔を見る度にそう思う。言っておくが、決して慢心ではない。自分の努力に裏付けされた自信である。

今日も面接に向かう。訪問先は伏せるが名前を聞けば誰もが知っているであろうメーカーだ。企業研究もばっちり。社長の名前から昨年の売上高まで答えられる。完璧だ。電車に揺られながら新聞を取り出す。移動時間には必ず目を通すようにしている。面接で日本の経済状況や気になるニュースを聞かれることもあるからだ。増税に取り組む日本政府、ベルギーで起きたテロ、機械化が進む日本、増える待機児童……めぼしいのはこれくらいか。頭の中でそれらの意見を用意する内に、会場に着いた。ショータイムだ。

面接がはじまった。形式は個人面接。学生1人に対し面接官3人。よくあるパターンだ。真ん中に座った面接官がこちらを見て微笑んだ。俺も微笑み返す。眼鏡をかけた面接官の瞳がギラリと鋭く光ったので、少し気を引き締めた。丁寧な口調で眼鏡の面接官が話し始める。
「弊社を志望した理由をお聞かせください」
「はい、私が御社を志望した理由は……」
用意していた隙の無い返し、眼鏡の面接官が微笑む。両脇の面接官がひたすらペンを動かしているのが少し気になったが、構わず続ける。
「私は体力には自信があり新規事業にも積極的に……」「サークルでは会計職を務めミスを出したことはありません……」「資格取得に努め向上心を磨き……」
回答する度に眼鏡の面接官は微笑んだ。会心の出来だ。

「それではこれで面接を終了します。お疲れ様でした」
眼鏡の面接官がそう言ったので、お礼を言って退出しようとすると、
「少々お待ち下さい。大変意義の有る時間でしたので、今後について説明します」
通過確定か?
「はい」
高鳴る心を抑えて椅子に座る。眼鏡の面接官の瞳が鋭く光る。
「まずはじめに、弊社が導入しているロボットには最新式の充電池を搭載しており120時間まで連続して稼働、疲れることはありません。次に、弊社が導入しているロボットには完璧なプログラミングが施されており、業務に関しミスが出たという報告は導入時から一件もありません。次に、弊社が導入しているロボットには人工知能が導入されており、常に最善かつ最も効率的な方法で業務にあたっています……」
突然なんだ?その後も面接官は俺の回答に対し同じ様な言葉を並べていく。気付けば両脇の面接官もペンを置き、こちらを見て微笑んでいる。
「……以上のことから、貴方を不採用とさせて頂きます。貴方の今後のご多幸をお祈りします。これで面接を終了します。お疲れ様でした」
「ちょ、ちょっと待ってください!私はボランティアサークルで様々な人を見てきました!人を見る目には自信があります!人事の一員として、御社をより発展させる人材を育ててみせます!」
動揺は隠せなかったがなんとかそれらしい事を言えた。終わらせてたまるか!
「……その必要はありません。これで面接を終了します。お疲れ様でした」
面接官の眼鏡の奥に見える瞳が、電源を落とした様に暗くなった。